285(25-04)


907便控訴棄却に関する見解

事故防止に反する控訴棄却に抗議する


 2001年に発生したニアミス事故で管制官2名が刑事責任を問われていた裁判は、2010年10月28日に最高裁が管制官2名を有罪とした高裁判決を支持しました。

 エラーを個人の責任とし処罰するのは、航空事故の再発防止の観点から大きく逆行するものであり、不当な判決です。

以下に、上告棄却に対する航空連の「見解」を掲載いたします。

日航機ニアミス事故最高裁上告棄却に対する見解

最高裁は2010年10月28日、2001年1月31日に静岡県焼津市上空で起きたニアミス事故について東京地裁が下した無罪判決を覆した東京高裁判決を支持し原告らの上告を棄却した。最高裁の判断は、事故の特徴でもある複合的原因によるシステム性事故を考慮せず、極めて不当な判決と言わねばならない。

この裁判は、2001年1月31日に静岡県焼津市上空で2機の日本航空機が異常接近したさいに起きた事故で、2名の管制官が業務上過失傷害罪に問われていた事件である。2006年3月に東京地裁判決はシステム性事故の特性から原告らに無罪判決を言い渡したが、控訴審で東京高裁は2008年4月、無罪判決を覆し不当な有罪判決を言い渡したために最高裁で争われていたものである。最高裁判決によって原告2名の管制官は執行猶予付きの禁固刑が確定することとなった。

この事故は、様々な要因が複雑に絡み合った結果発生したシステム性事故であり、それを個人の刑事責任を追及し、当事者を処罰し雇用を奪うことは、事故の本質に目を向けず、刑事罰を優先した不当な判断と言わねばならない。複合的な原因をもつシステム性事故においては事故調査による原因究明と再発防止策が優先されるべきものであり、個人に責任転嫁し処罰したところで今後の航空の安全が守れるわけではない。むしろ逆に個人が処罰されることで現場を委縮させてしまうことが懸念される。

世界の航空界では、人間であるが故に避け得ない間違いを「ヒューマンエラー」と呼び、社会通念上の「ミス」とは厳格に区別している。「エラー」はどんなに注意をしていても発生するものであり、特に現在のような高度にシステム化した航空機の運航や管制業務においては、「エラー」が発生することを前提としたシステムを構築しなければ、航空事故を撲滅できないことが世界の共通認識になっている。

最近、旭川空港で発生した、エアーニッポン機が管制官から誤った指示を受け地表に異常接近した事例も、航空機側のシステムで辛うじて未然に防止できたものの、その他のシステムによってカバーできなかったことが原因で発生したものである。

航空事故の撲滅を目指して闘って来た欧米の航空先進諸国では、司法上も社内規定上も「エラー」を処罰しないことがすでに常識であり、国際民間航空条約にもその旨が明記されている。エラーを分析しそれを次の安全対策に役立てるためには、関係者がその時何を考え、どう行動したのか等、エラーの発生に至った状況について、関係者の証言を包み隠さず得ることが必要だからである。この認識は欧米の司法界や航空界、行政、そして社会全体にも広まり定着している。日本においても徐々にこの考え方が広まっており、日本航空では安全管理規程の中に自発的報告制度を推奨し、ヒューマンエラーについては非懲戒とする、との方針の下で様々なエラーを安全対策に生かそうとしている。

今回の最高裁判決は、こうした安全性向上を目指す世界の、そして日本の社会の流れに真っ向から反するものである。航空機や管制システムが高度に発達した中でも、管制官とパイロットは依然として無線電話という脆弱な媒体で交信することを強いられている。無線によるやり取りの中では、便名も含め「言い間違い」は日常しばしば経験することである。たとえ「言い間違い」というエラーがあっても、その内容が明らかに違うと判断される場合は、管制官もパイロットも確認行為により安全運航を確保している。

しかし 問われたニアミス事故は、出発機到着機が交錯する非常に複雑な空域において、しかも過密ダイヤ、TCAS(衝突防止装置)を含む高度なシステム、そして交信を無線に頼る旧態依然とした状況に、不幸にして「便名の言い間違い」というエラーが重なったことにより発生した。

従ってなすべきことは、「刑事罰によりミスを咎める」のではなく、「言い間違い」は人間の適応力に環境やシステムがマッチしていない状況で発生したエラーであると認識し、環境やシステムの改善等の対策を取ることである。

刑法により罰則を定める理由は、処罰を抑止効果として同種犯罪を防止し、国民の生命や財産を守ることであるが、今回の「有罪判決」は、何も国民に利益をもたらさない。

一方で、すでに国土交通省はニアミスの発生を警告するシステムなどを改善し、エラーから学び、再発防止に生かす取り組みが進んでいる。しかしながらエラーが犯罪として扱われてしまえば、今後エラーの発生時に関係者が口をつぐんでしまい、改善の道を閉ざすこととなり、貴重な経験、事例を航空安全の為に生かすことが出来なくなる。すなわち、エラーを貴重な教訓として再発防止対策を実施する機能が、全く働かなくなるのである。

今般の最高裁の上告棄却による管制官2名の有罪判決は、航空事故の再発防止の観点から大きく逆行するものであり、不当な判決として抗議をする。

以 上

2010年11月10日  航空労組連絡会
ページ先頭へ 前へ 次へ ページ末尾へ